東京地方裁判所 平成4年(行ウ)89号 判決 1992年10月01日
東京都足立区竹の塚一丁目五番一八号-三〇二
原告
春日博道
右訴訟代理人弁護士
鶴見祐策
同
羽倉佐知子
東京都荒川区西日暮里六丁目七番二号
被告
荒川税務署長 中野武彦
右指定代理人
武田みどり
同
寺島進一
同
本多三朗
同
田邊誠一
同
木下茂樹
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
1 被告が原告の平成二年分所得税について平成三年五月二八日付けでした更正のうち総所得金額三五二万八七四五円、納付すべき税額一六万六五〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原因の平成二年分所得税(以下「本件所得税」という。)について、原告のした確定申告、被告のした更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税賦課決定(以下「本件賦課決定」という。)並びに右各処分に対して原告のした不服申立て及びこれに対する応答の経緯は別表記載のとおりである。
2 原告は、本件更正のうち総所得金額三五二万八七四五円、納付すべき税額一六万六五〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定に不服があるから、その取消しを求める。
二 請求原因に対する被告の認否
請求原因1の事実は認める。
三 抗弁
1 本件更正の適法性
本件所得税に係る総所得金額及びその算出の根拠は以下のとおりである。
(一) 申告総所得金額 三五二万八七四五円
右金額は、原告が確定申告書に記載した総所得金額(事業所得の金額)である。
(二) 加算金額 二二〇万円
原告は、本件所得税の確定申告に係る総所得金額の計算に当たり、その妻である春日えみ子に対する青色事業専従者給与の額として二一〇万円を必要経費に算入し、青色申告控除額として一〇万円を控除した。
しかしながら、被告は、昭和六二年三月一三日付けで、所得税法(以下「法」という。)一五〇条一項一号に基づき、原告の昭和五八年分以降の青色申告の承認を取り消す旨の処分(以下「本件青色申告承認取消処分」という。)をしたから、原告は、同年分以降青色申告者に対する特典である青色事業専従者給与額の必要経費算入及び青色申告控除の適用を受けることができない。そこで、青色事業専従者給与額の必要経費算入及び青色申告控除額の控除を否認して、これを申告総所得金額に加算すべきこととなる。
右金額は、右の必要経費に算入された青色事業専従者給与の額と青色申告控除額との合計額である。
(三) 減算金額 八〇万円
本件青色申告承認取消処分がされたことに伴い、原告が従来青色事業専従者としていたえみ子に係る事業専従者控除額を認容して、これを申告総所得金額から減算すべきこととなる。
右金額は、えみ子に係る事業専従者控除額である。
(四) 総所得金額 四九二万八七四五円
右金額は、右(一)の金額に、右(二)の金額を加え、右(三)の金額を減じた額である。
以上のとおり、原告の平成二年分の総所得金額は四九二万八七四五円であり、本件更正に係る金額と同額であるから、本件更正は適法である。
2 本件賦課決定の適法性
本件更正に基づいて原告が新たに納付すべき税額は一四万円(国税通則法一一八条三項により一万円未満の端数金額を切り捨てた金額)であるから、同法六五条一項により右税額に一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した過少申告加算税の額一万四〇〇〇円を賦課した本件賦課決定は適法である。
三 抗弁に対する原告の認否及び主張
1 抗弁1(本件更正の適法性)のうち、同(一)(申告総所得金額)の事実、同(二)(加算金額)の事実中被告がその主張のとおり本件青色申告承認取消処分をしたことは認める。主張は争う。
2 同2(本件賦課決定の適法性)は争う。
3 原告の主張
被告は、法一五〇条一項一号に基づくものとして本件青色申告承認取消処分をしたが、原告は、法一四八条一項に従って帳簿書類の備付け、記録及び保存をしていたから、法一五〇条一項一号に該当する事実はない。
仮に、本件青色申告承認取消処分が、被告所部職員による所得税調査の際に原告が帳簿書類を提示しなかったとの理由によるものであるとしても、一五〇条一項一号の文理上、かかる事由が同号に該当するものではない。のみならず、原告は、右調査の際、帳簿書類を同職員に提示したにもかかわらず、同職員は、当初から原告に対し不利益な処分をすることを目的として、敢えてこれを検査しようとせず、粗暴な振舞いに及んだ末勝手に辞去したものである。
したがって、本件青色申告承認取消処分は違法であるから、これを前提とする本件更正及び本件賦課決定も違法である。
理由
一 請求原因1の事実は当事者間に争いがない。
二 本件更正の適否について
1 抗弁1(本件更正の適法性)の(一)(申告総所得金額)の事実、同(二)(加算金額)の事実中被告がその主張のとおり本件青色申告承認取消処分をしたことは当事者間に争いがなく、同(二)のうち、原告が平成二年分の確定申告に係る総所得金額の計算に当たり、えみ子に対する青色事業専従者給与の額として二一〇万円を必要経費に算入し、青色申告控除額として一〇万円を控除したこと、同(三)(減算金額)のうち原告がえみ子を従来青色事業専従者としていたこと、以上の事実は、原告においてこれを明らかに争わないから、自白したものとみなされる。
しかして、右のとおり、被告は本件青色申告承認取消処分をしたのであるから、原告は昭和五八年以降青色申告者に対する特典である青色専従事業者給与額の必要経費算入及び青色申告控除の適用を受けることができないこととなる一方、原告が従来青色事業専従者としていたえみ子に係る事業専従者控除額の控除を受けるべきこととなるから、本件所得税に係る総所得金額は抗弁1の(四)(総所得金額)のとおり四九二万八七四五円と算出されるところ、右金額は本件更正に係る総所得金額と同額である。
2 原告は、本件青色申告承認取消処分が違法であるからこれを前提とする本件更正も違法である旨の主張をする。
しかしながら、処分の取消訴訟において、先行行為の要件についての瑕疵を後行行為の違法事由として主張することができるのは、先行行為と後行行為とが一連の行為として相結合して一つの法的効果の実現を目指し、これを完成する関係にあるような場合に限られるものと解される。
しかるところ、青色申告承認取消処分は、納税義務者に対し各種の特典を伴う青色の申告書によって申告することができる資格を付与する青色申告承認処分を取り消すことによって、その取消原因の存する年度に遡及して右の資格を喪失させる処分である(法一四三条、一五〇条一項)から、納税義務者の資格に関する処分あるいは納税申告の方法を規制する処分ということができる。他方、所得税の更正は、申告書の提出があった場合において、これに記載された課税標準又は税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったとき、その他課税標準又は税額等の計算が税務署長の調査したところと異なるときに、税務署長が、申告書の記載を是正してその課税標準又は税額等を確定する処分である(法一五四条一項、国税通則法二四条)。そして、法律上青色申告承認取消処分がされたからといって必ず課税標準等が変動するというものではなく、青色申告承認取消処分をしたときは常に所得税の更正をしなければならない建前ともなっていない。そうすると、青色申告承認取消処分と所得税の更正とは、これらが一連の処分として相結合して一つの法的効果の実現を目指し、これを完成する関係にあるとはいえないから、所得税の更正の取消しを求める訴訟において、その取消原因として、その更正に先行する青色申告承認取消処分の違法事由を主張することはできない。
したがって、原告の右主張はその前提とするところにおいて失当である。
4 そうすると、本件更正は適法である。
三 本件賦課決定の適否について
右二によれば、本件更正に基づいて原告が新たに納付すべき税額は一四万円(国税通則法一一八条三項により一万円未満の端数金額を切り捨てた金額)となるから、同法六五条一項により右税額に一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した過少申告加算税の額一万四〇〇〇円を賦課した本件賦課決定は適法である。
四 結語
以上によれば、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中込秀樹 裁判官 榮春彦 裁判官 長屋文裕)
別表
本件課税処分の経緯
平成二年分
<省略>